映画「アンパンマン」ばいきんまんは、決して諦めないー 大人も感動? 敵キャラだからこその努力と不屈の精神

敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝」第48弾は、映画『それいけ!アンパンマンばいきんまんとえほんのルルン』のばいきんまんの魅力に迫ります。

児童向け作品の敵役に求められる要素は何か。変な話かもしれないが、決して諦めない姿勢だと思う。

基本的に児童向けの作品では正義の側が必ず勝たないといけない。常に正義が勝たないといけないということは、やられる側は、何度も懲りずに“悪さ”をしないといけない。

『アンパンマン』シリーズの敵役・ばいきんまんは、まさにそれを体現したキャラクターである。彼はいつもアンパンマンにやられては「はーひふーへほー」と独特の雄叫びをあげてやられるも、次のエピソードでは懲りずに(諦めずに)いたずらを繰り返す。ばいきんまんがアンパンマンには勝てないと諦めてしまったら、この作品は成り立たなくなる。

そんなばいきんまんの諦めの悪さと不屈の根性に焦点を当てたのが、6月28日に公開された映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』だ。この映画の主役はばいきんまんであり、彼がいかに努力家タイプの敵役であるということがよく分かる内容となっているのだ。

「アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン」場面カット■実は天才科学者!? ばいきんまん

「アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン」場面カット

『ばいきんまんとえほんのルルン』は、突如ばいきんまんが絵本の世界に吸い込まれてしまい、森の妖精ルルンに請われ、森を砂漠に変えてしまう「すいとるゾウ」をやっつけようとする物語だ。

すいとるゾウは、その大きな鼻でなんでも吸いとってしまい森の生気を奪い取っている。このままでは森が全滅してしまうという中、嫌々ながらもばいきんまんはルルンに力を貸すことになるのだが、生身ではとても太刀打ちできない。そこで、ばいきんまんは間に合わせの材料で木製ロボット「ウッドだだんだん」を作り上げ戦いを挑む。

「アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン」場面カット

何もないところから、道具の鋳造から始めて、製図も全て自分でこなし、完璧なロボットを組み立ててみせるばいきんまんの姿に、天才科学者の片鱗が垣間見える。いつも空飛ぶUFOをはじめとする、不思議な機械を使ってアンパンマンと相対する彼だが、あれらの機械もすべて自ら設計しているのだ。普段は見せない発明の努力を丹念に見せる点が、本作のユニークポイントだ。

作中で、いつも乗っているUFOなども自ら開発していると言及されることはないが、ウッドだだんだんの一部を変形させて、普段乗っているUFOの木製版を生み出しているあたり、「いつもそうやって努力して発明しているんだな」と自然に思わせる展開になっている。

■アンパンマンとの共闘…アツすぎる展開に注目

しかし、すいとるゾウはあまりに強すぎるので、結局ばいきんまんの力では止めることができない。そこでばいきんまんは、ルルンに対して「アンパンマンを呼んでこい」と指示し、2人の共闘が実現することになる。

自身の非力さを技術力で補い、それでも足りなければ助けを借りることもいとわない。自らの力の限界をきちんと認識し、森を守るという目標に対して、必要な手段を冷静に講じている。プライドが邪魔してアンパンマンに助けを借りられず敗北するという愚を犯さないのだ。

そして、何よりこの物語が示すのは、ばいきんまんは決して諦めないということだ。自分がやられて「もうダメだ……」ではなく、それでもまだ手はあるはずだと考えることを止めない。これは普段からやられても諦めずに悪さを繰り返す普段のばいきんまんの姿勢にも通じているので、キャラクター描写としてブレていない。

どれだけアンパンマンにやられても諦めることがないように、すいとるゾウが相手だったとしても彼が諦めるなんてことはないのだ。ある意味、やられ慣れているし、このくらいの苦境は、常日頃くらっているアンパンチに比べればどうってことないのかもしれない。

「アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン」場面カット■『ばいきんまんと絵本のルルン』が大人も感動できる理由

そんなばいきんまんの窮地を、アンパンマンは助けに行くことを即座に了承する。アンパンマンは誰に対しても優しい。ばいきんまんのような対立相手であっても取りこぼさない。それが正義のヒーローたるゆえんなのだろう。

『アンパンマン』の生みの親、やなせたかしは、光に対しては影が必要だからとばいきんまんというキャラクターを作り上げたと語っている。

「光に対する影、影がなければ光もない<中略>アンコには塩味、料理にスパイス、アンパンマンにはばいきんまん」(引用:『アンパンマン伝説』やなせたかし著、フレーベル館、P15)

アンパンマンが輝くのも、ばいきんまんがいるからだと著者は言っている。つまり、互いに必要とする間柄なのだ。倒すべき敵がいるからヒーローは活躍できるという王道の関係性が2人の間にはある。

失敗を重ねて努力する敵役であるばいきんまんは、視点を変えれば多くの人のロールモデルにもなりえそうな魅力がある。それでも、彼は自分が正義のヒーローになりたいとはまったく思っていない。本作でも相変わらず「愛と勇気」と聞くとじんましんが出そうになると言っている。あくまで自分の立ち位置は悪者のほうなのだと知っている。ばいきんまんは、敵役の大切さをぎゅっと凝縮したようなキャラクターであり、そんな彼の魅力を今回の映画は的確に引き出している。大人も感動できるという評判は、そんな敵役の多面的な側面を丁寧に見つめたためだろう。

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