音楽ではプロデューサーやアーティスト、ファッションの世界ではデザイナー、クリエイティブディレクターなど、その多彩な才能を幅広いフィールドで発揮し続けるファレル・ウィリアムス。 【全画像をみる】ファレルの自伝映画は全編レゴ®。監督インタビュー「制約はさらにクリエイティブになれるチャンス」 そんな彼の知られざる半生を、なんと全編レゴ®アニメーションで描いた映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』が、2025年4月4日より全国で公開されます。 ファレル本人のご指名でメガフォンを執ったのは、『バックコーラスの歌姫たち』(2013)でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞したモーガン・ネヴィル監督。 ファレルの家族や友人、さらにはジェイ・Zやケンドリック・ラマーら豪華アーティストたちのインタビューを交えつつ、バージニア州で生まれ育った孤独な少年が世界的ヒットメーカーになるまでの旅路を、カラフルなレゴ ブロックを用いたアニメーションで描きました。 ギズモードでは、映画の日本公開を前に、ロサンゼルスのネヴィル監督にリモートインタビューを実施。ドキュメンタリーなのにレゴ アニメーションという、実にユニークな映画の舞台裏をたっぷりと伺いました。
レゴで物語を描くことによりファレルの頭の中に入り込むことができた
──「ファレル・ウィリアムスの半生をレゴ アニメーションで描いたドキュメンタリー」と聞いて、どんな映画なのか想像がつかなかったのですが、とても面白かったです。ファレル自身のアイデアだったそうですが、どのようなオファーを受けたのですか? モーガン・ネヴィル監督(以下、MN):ファレルいわく、過去にも彼の半生を映画化したいと言われたことは多々あったものの、まったく興味が持てなかったそうです。でも、彼は僕の映画のファンだったらしく、もし僕がレゴを使って映画を作ったら、彼自身にとっても面白いものができるかもしれないと思いついたのだとか。 「僕らが創造性を発揮するチャンスとなるような映画にしたい」と言われました。ただ自分の歴史を語るのではなく、誰も作ったことのないような作品にしたかったのだと思います。 ジャンルの枠を完全に超えたことをやりたがるのが、とてもファレルらしいですよね。 ──それを聞いて、監督はどう思いましたか? MN:僕はすぐに彼のアイデアを気に入りました。まったく前例がないので、正直よく意味はわからなかったけど(笑)。いろんな意味で面白い作品になるはずだと考え、すぐに飛びつきました。 ──通常のドキュメンタリーと違って、とてもクリエイティブかつ革新的な映画ですよね。 MN:レゴ アニメーションで物語を描くことにより、単にカメラを向けるだけでは不可能な形でファレルの頭の中に入り込むことができました。僕はかねてからクリエイティブな人々がどのように考え、どのように世界を見つめているのか興味があったので、今作でもファレルの思考回路を映し出したいと思いました。 ──ファレルが音を“見る”シーンで、この映画がレゴ アニメーションで描かれた意味が理解できたような気がします。 MN:まさにあのようなシーンは、登場人物をカメラで撮影するだけでは生み出せません。 今作で僕らは「音が色として見える」というファレルの考えに誘われて、できる限りそれを受け入れようとしました。映画全体に色彩豊かなストーリーが詰まっており、僕はその自由なところが大好きですし、それが何を意味するのか考えるのも楽しかったです。 今作の野心と、ある種のシュールさが、ファレルの人となりを忠実に表しているように思います。
制約はクリエイティブになれるチャンス
──レゴ アニメーションを通して物語を伝えるうえで、レゴ社からリクエストはありましたか? MN:登場人物の見た目は自由にデザインできたのですが、すべてのシーンは実際にレゴブロックで作れるものでなければなりませんでした。あとは何しろレゴなので、登場人物が本物のおもちゃのように振る舞う必要があったんです。レゴは体を曲げることができないので、ダンスのシーンなどは工夫が必要でした。 それに彼らには指も鼻もありません。そういったなかで、いかに創造性を発揮できるが課題だったのですが、制約はさらにクリエイティブになれるチャンスでもあるので、実際はとても楽しかったです。 なかにはその制約を逆手に取って遊んだシーンもあります。少年時代のファレルが『スター・トレック』を観て、ミスター・スポックの「長寿と繁栄を」(※iPhoneの絵文字にもなっている、バルカン・サリュートと呼ばれるハンドサイン)を真似しようとするのですが、指がないからできなくてがっかりするんです(笑)。あれは生身の人間のようなディテールがないからこそ生まれた楽しさでした。 ──おなじみのアーティストたちがレゴとして登場するのも楽しかったです。 MN:登場人物がレゴだからこそ、普遍的に感じられるのではないかと思います。 ほとんどの人は何らかの形でレゴに触れてきたと思うので、大物プロデューサーでさえもレゴ化されると親しみやすく感じられるというか。僕たちがレゴに自己投影できるのは、親しみを感じるし、解像度が低いからだと思います。 ──監督自身も出演されていますが、レゴ化された気分はいかがでしたか? MN:すごくうれしかったです(笑)。レゴで人の特徴を捉えるのは決して難しくないのだと気づきました。それはとても楽しい作業で、ファレルが深く関わった部分でもあります。彼は服装をはじめ、自分のキャラクターの見た目にこだわっていました。 通常のレゴ映画の登場人物は最初から最後まで同じ衣装ですが、今作のファレルは80着以上を着こなしているんです。 ──そんなにあったんですね。レゴ化したファレルがPowell-PeraltaのBONES Tシャツを着ていたりして、とてもリアルだなと思いました。 MN:ほとんどの衣装はファレルが実際に着ていた服を参考にしています。長年の写真がたくさんあったので、できるだけそこに写っている服を再現しました。
僕たちはある意味、この映画を2回作った
──インタビューのシーンは実写のドキュメンタリーのようなスタイルでしたが、インタビュー映像をもとにアニメーションを作ったのですか? MN:いえ、実はインタビュー素材の大半は音声のみだったんです。 ──そうだったんですね! 全然わかりませんでした。 MN:それは良かった(笑)。実際に撮影したシーンもあるのですが、インタビューの多くはZoomや電話で行ないました。というのも、そのほとんどはコロナ禍の1年目で、みんなが家にいた時期だったんです。 ──随分と前から取材していたんですね。 MN:パンデミックの直前にスタートして、完成までに約4年半かかりました。僕たちはある意味、この映画を2回作ったようなものなんです。 まずはインタビュー音源やアーカイブ映像を絵コンテと組み合わせ、流れを確認するための仮映像を1年半ほどかけて作りました。これは通常のドキュメンタリー制作のような作業でした。それからアニメーションスタジオへ行き、ビジュアル部分に取り掛かりました。 ──劇中ではファレルをよく知る数々のアーティストに加え、彼のご家族にもインタビューされています。妻のヘレン・ラシチャンもインタビューに答えていて驚きました。 MN:ヘレンがインタビューを受けたのは今回が初めてだったそうです。ファレルのご両親はとても面白い方たちで、最高の個性の持ち主でした。 ジェイ・Zやスヌープ・ドッグ、ミッシー・エリオットやティンバランドのようなレジェンドをはじめ、たくさんの素晴らしいアーティストからも話を聞くことができました。特に印象深かったのはラッパーのN.O.R.E.で、まるで漫画のキャラクターみたいな人なんです(笑)。レゴ化された姿もすぐに想像できて、とてもワクワクしました。 ──インタビューした人たちにレゴ映画だと伝えたときは、どのような反応でしたか? MN:実はほとんどの人には言わなかったんです(笑)。「アニメ化します」とは伝えたのですが、レゴとは言いませんでした。ミッシー・エリオットやダフト・パンクなど、キャラクターの見た目について意見を聞いた人もいましたが、他の人たちは予告編が公開されるまでレゴ映画だと知らなかったはずです。いかにしてクリエイティブであり続けるか
──ファレルにはカリスマ性のあるスーパースターというイメージしかなかったのですが、子ども時代を含め、今まで知らなかった面を知ることができて興味深かったです。大きな成功を収めてからもなお不安を抱えていたのは意外でした。 MN:僕もこの映画を作るまで会ったこともなかったですし、公の姿しか知らなかったので、ファレルの苦悩は知りませんでした。インタビューを重ねていくうちに、深い話をすればするほど心を開いてくれるようになったんです。 僕はファレルの友人や家族にも話を聞いて深掘りしていったのですが、彼はそれを尊重してくれて、自分の気持ちをオープンに語る必要性を理解してくれました。 ファレルが経験したことの多くは、実は僕たちにも共感できるものだったんです。それはつまり、同じことを何度も繰り返すよう求められる世界で、いかにしてクリエイティブな人間であり続けるか、ということでした。 ──レゴ映画がこんなにも感情豊かだとは思いもよらず、登場人物はプラスチックの人形なのに、とても感動してしまいました。 MN:この映画にはユーモアと感情が詰まっています。アメリカでも多くの人が、「物語に没頭するうちに、レゴ映画を観ていることを忘れていた」と言っていました(笑)。 レゴの顔は人間と違って情報量が少ないので、ちゃんと感情が伝わるか心配だったのですが、間違いなく伝わったようでうれしかったです。 ──監督はこれまでもクリエイティブな人たちを見つめたドキュメンタリーを撮ってこられましたが、どのような基準で主題となる人物を選んでいますか? MN:多くの場合は直感です。僕はクリエイティブな人々を見つめるのが大好きなのですが、それと同時に、自分にとっても新しいクリエイティブな挑戦を求めています。誰もやってこなかったことをやるという点で、今作は完璧な挑戦となりました。映画を作るには何年もの月日を費やす必要があるので、心から大切に思えなければなりません。 これまでのほとんどの作品は主題を決めるのに5分とかからなかったのですが、それは良いことだと思っています。自分の中でピンと来たものは、最後までやり遂げるべきです。 ──監督の作品は多くの人にインスピレーションを与えていますが、監督自身が主人公からインスパイアされることはありますか? MN:常にインスピレーションを受けています。今回良かった点は、このような映画の作り方が決まっていなかったこと。編集するにあたって、エディターたちには「説明書は箱の中にある」と伝えました。つまり、ファレルの話に耳を傾けろ、ということです。 劇中のファレルは物事にクリエイティブに取り組む方法を語っており、それはまさに、この映画の作り方でもあるんです。 ──ファレルとの仕事を通して最も印象に残ったことは? MN:ファレルと一緒に仕事ができたのは、本当に素晴らしい経験となりました。この映画は彼の創作過程を映し出したものですが、僕は監督として、彼にプロデュースされているアーティストのような気分を味わいました(笑)。 アイデアを与え、それを使って何かを生み出すよう励ますということは、まさに優秀なプロデューサーの仕事です。彼らは何らかの枠組みを作って、「さあ、やってごらん」と投げかけるわけです。 また、ファレルの地元・バージニアビーチで行なった撮影も、とても印象に残りました。彼が育ったアトランティスという公共住宅に行くと、たくさんの人が声をかけてくれました。 ──ファレルのライフストーリーと一緒に、劇中では彼が手がけた音楽も存分に楽しめます。 MN:実は選曲は僕が担当したんです。ファレルが手がけた全曲を聴いて、劇中でどのように使うか考えました。編集したカットを初めて見せた時、ファレルは自分が書いた時の状況とは異なる形で曲が使用されていて混乱したようです。 例えばN.E.R.Dの「God Bless Us All」は、彼が友だちにアドバイスした時に書いた曲なのですが、今作では幼少期の彼に牧師が歌いかけるシーンで使っています。何が起こったのか理解するのに丸一日かかったようですが、最終的には「すごく気に入った」と言ってくれて、1曲も変更されませんでした。とても驚きましたが、彼は素晴らしいパートナーで、僕のことを信頼してくれたんです。僕は信頼されることもドキュメンタリー監督の仕事の一部だと思っています。 さらに、ファレルは新曲まで書いてくれました。僕が彼のライフストーリーをどう受け止めたか説明したら、それに基づいて曲を書いてくれたんです。フィルムメーカーと主人公としては非常に珍しい関係ですが、この映画のそんなところも気に入っています。
現実だからこそ驚きがあるそれはいつだって想像よりもずっと面白い
──ところで監督は映画制作を始めた時、なぜドキュメンタリーを選んだのですか? MN:実は昔、僕はジャーナリストだったんです。でも映画制作が大好きで、子どもの頃から作っていました。ドキュメンタリーは、映画とジャーナリズムを組み合わせたようなものだと考えています。 僕は学ぶのが大好きだし、好奇心旺盛で、物語を伝えるのも好き。素晴らしい人たちから、人生における最も大切なことについて教えてもらい、彼らの信頼を得たうえで世界と共有することができるのですから、世界一の仕事だと感じています。 ──ドキュメンタリーを制作する上で、最も大切にしていることは? MN:常に柔軟な考えを持つことです。 いかなる状況であれ、人は何が起こるか予想してしまうもの。そして多くの場合、自分の先入観と現実が合わないと無視しようとします。でも、現実だからこそ驚きがあるわけで、それはいつだって想像よりもずっと面白いんです。 僕は、普通ではない現実を受け止めるのが好きなんだと思います。
ファレルにとって日本は夢のような場所
──いよいよ『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』が日本でも公開されますが、楽しみにしている日本の映画ファンに伝えておきたいことはありますか? MN:ファレルは日本をとても大切に思っていて、制作中もよく日本について話してくれました。彼にとっては、すべてが理にかなっていると感じられた初めての場所だそうです。 宇宙やスケートボードや音楽など、大好きなものがみんな詰まっていて、「夢のような場所」と感じたのだとか。友だちもたくさんできて、NIGOと一緒にファッションブランドBILLIONAIRE BOYS CLUB(ビリオネア・ボーイズ・クラブ)を立ち上げました。 彼にとって大きな意味を持つ場所だからこそ、この映画では必ず日本に触れようと思いました。 ──最後になりますが、監督はこれまでにエミー賞、グラミー賞、アカデミー賞を受賞されていますよね。過去に21人しか達成していないEGOT受賞まであと一つですが、トニー賞は狙わないんでしょうか? MN:この映画だったらミュージカル版を作れるかもしれないし、ブロードウェイで上演したらいいかもしれないですね。まだ何も始めていないけど、何があるかわかりませんよ。 もしかしたらトニー賞も狙えるかもしれません(笑)。 『ファレル・ウィリアムス ピース・バイ・ピース』は、2025年4月4日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開。 配給:パルコ ユニバーサル映画 Image: © 2024 FOCUS FEATURES LLC