運用資産およそ150兆円の世界的な投資会社「ブラックストーン・グループ」。1985年にニューヨークで創業し、会長兼CEOとして巨大ファンドを率いるスティーブン・シュワルツマン氏(77)が来日した。アメリカ政財界の大物に日本経済の現状と先行きをどう見ているのか聞いた。
シュワルツマン氏はトランプ前政権に経済界が助言する組織の議長を務めるなどトランプ氏に近いことでも知られる。10月に東京で開かれた自社のイベントに出席するため来日した。
インタビューではじめに口にしたのは日本への感謝だった。シュワルツマン氏「1986年に初めて日本に来て、翌1987年も第1号ファンドの営業のために訪れました。資金を集めるのに苦労しましたが幸運なことに日興証券(当時)から1億ドルのコミットメントを得ました。ほかの日本の投資家からもあわせて3億2000万ドルの拠出を得ることができ、日本企業は私たちの第1号ファンドの最大の投資家になったのです。当時は世界中の誰もがそんなファンドは実現しないと思っていました。それ以来、私たちは日本と長期的な関係を築いてきました。また戻ってくることができてとてもうれしく思います」ポジティブな変化Q.日本の今の経済状況をどう見ていますか。「とてもよい状態です。経済成長率は1%から1.5%の範囲になるでしょう。インフレ率は低下しつつあり、株式市場は記録的な水準で金利は世界のほかの地域と比べるとまだ低い。バブル崩壊後、長い間日本が成長力を取り戻すのを待ってきました。2010年代の安倍政権での改革を経て今日本は大きな変化を迎えています。過去25年のどの時期と比べても、海外からの注目度が極めて高くなっているのです」Q.日本のどんな変化に注目しているのですか。「日本がみずからの改革によって世界に開かれたことです。岸田前政権は「資産運用立国」を掲げ、石破政権にも引き継がれています。世界で投資する私たちから見るととてもポジティブな変化です。30年前と比べるとコーポレートガバナンス(企業統治)も世界標準的なものになりました。日本には巨額の貯蓄があることも相まって世界の投資家から期待されているのです」Q.NISAの効果もあって日本でも投資する人が増えてきました。「日本の高齢化社会を考えると退職後の生活は他の国と比べてはるかに深刻な問題です。引退してからも多くの収入が必要になりますが、政府がすべて与えられる訳ではありません。日本では貯蓄の半分が投資ではなく現金で保有されているため、日本人は通常の資産配分をしているほかの国と同じような投資リターンを得られていません。この慣習を変えることはそれほど難しいことではありません。高いリターンの投資は多くありますし、興味深いことに日本政府もその考えを後押ししてくれています」Q.日銀がマイナス金利を解除し、金融政策の正常化に踏み出したことは何をもたらしますか。「日本は世界で最も低い金利を維持してきました。長い間マイナス金利を続けてきたことはかなり異例です。今のグローバルな観点からいうと金利の正常化には一定の意味があると思います。しかし、日銀が何を決めるかは私にはわかりませんし、日銀以外ほかの誰にもわからないでしょう」FRBには「A」評価をQ.アメリカ経済の先行きを不安視する向きもあります。悪化させずに安定成長させるソフトランディング(軟着陸)は可能でしょうか。「アメリカ経済は比較的強い状態にあり、金利が高いにもかかわらず2%以上の経済成長を続けています。これから景気が後退すると考えている人はほとんどいません。確かに高金利の影響で若干は減速していますが、ほぼすべての人がインフレ率の低下に伴って今後金利は下がっていくと考えています。FRB=連邦準備制度理事会はほぼ完璧な結果に導いてきました。インフレ率は大幅に低下し、企業収益も好調です。10月の失業率は4.1%程度で、アメリカでは働きたい人はほぼ誰でも仕事を見つけることができます。私はFRBに「A」の評価を与えたいと思います」Q.これまでに多くのIT企業にも投資してきました。イノベーションを起こす企業を日本から生み出すために何が必要ですか?「テクノロジー分野にもっと強くなるためにどうすべきかは日本に限らずすべての国が自問している課題です。それは簡単なことではありません。一定の技術的な専門知識は必要ですが、私は新しいことを始めることを奨励する文化も必要だと考えています。すべてがうまくいくわけないですし失敗を受け入れる寛容さが必要です。アメリカでは私たちはいつも失敗しています。失敗はよいことではありませんが、次の開発につながるステップになるのであれば失敗してもかまわないのです。文化を変えることが重要な要素の1つなのです」
今回来日したシュワルツマン氏の滞在時間はわずか2日だった。今も精力的に世界中を飛び回って要人と会い、分刻みのスケジュールをこなしている。3月に続いて再び日本を訪問したのは今の日本にビジネスチャンスを見ているからだろう。「日本への期待は最高値を付けた株価を見れば明らかだ」とほほえむが、日本の株価はこのところ足踏みが続いている。シュワルツマン氏は最後に「日本政府が変革を続けることを願う」と述べてインタビューを結んだ。世界の投資家の期待に私たちは応えられるのか、問われるのはこれからだ。